カメラと文庫本ーーkyoto snaps!5。
2015年 07月 24日
そぞろ神が取り憑いたかのように、このどんよりと続く空の下から脱出したいと思う。でも、脱出したあとの旅先に、真っ青な空は望まない。やっぱり、曇った空の下を歩いていたいと思う。
X100のシリーズは名文の収められた文庫本のようなものだ。
乗客がまばらにしかいない駅のホームに立ち、列車が流れてくるのを待つ。陽射しは薄曇りにぼんやりと隠れてしまっているのだけれど、それでも日本特有の蒸し暑さに少し汗がにじんでいる。
ようやく2両編成の列車が到着して乗りこむと、冷房がきいていて、すうっと汗が引くのが分かる。乗客はまばらだ。九州の太平洋沿い、上り列車に乗ったのだから、海が見える方の席に腰を落ち着かせる。
やがて列車はゆっくりと加速していき、ディーゼル音と、線路のリズムが強く鳴り響く。高校生らしき制服姿の女の子が友人同士おしゃべりをしているが、それも列車のリズムにかき消され、車内自体はとても静かだ。このまま小一時間、とりあえず降りようと思う駅まで、流れていく景色を眺めることしかやることはない。
そんな折、ふと鞄のなかから一冊の文庫本を取り出す。昨日、本屋で購入した内田百閒の文庫本だ。小説のような、でもエッセイだから、内田先生には失礼だけれどもどこから読んでもいいや、と思いなす。その気楽さゆえに、旅のおともに選んだ。文庫本は場所をとらず、いつでも取り出すことができ、そして流麗な文体に列車のリズムがぴったりと合ってくる。読みながら大阪への旅路を想像する。ここは一等車両でもないし、目的地は県北の小さな町にすぎなくとも、いい本は旅を豊かにしてくれる。単行本ではそうはいかない。どうも姿勢を正して、家の一等いい場所で静かに読みたくなる。
すこし虚ろ虚ろとなって、視線を窓にやると、そこには青い海が広がっていた。薄曇りの陽射しに優しく照らされた水平線に、香るはずもない海のにおいを感じる。その時、僕は文庫本を閉じて、鞄に戻した。栞を挟むのを忘れたけれど、またどこからか好きな場所から読み始めればいい。
かわりに鞄から出したのはX100Tだった。流れていく車窓から見える、何の変哲もなく美しい海を、光学ファインダーでとらえて見る。すっきりとした見え具合のなかで、ちいさなブライトフレームからあふれる透明な青をじっと見つめる。水平線が、カメラの水準器と並行になったとき、僕はシャッターボタンを押した。絞りはF8、シャッタースピードは、動く列車のなかからだと不十分だったかもしれない。でも、それでも、旅の一枚目として、なんの変哲もない光景は特別な瞬間として切り取られた、それでとにかく充分だ。
X100Tのスタイルは良質の文庫本と同じだと思う。どこにでも持っていける軽快さ、いつでも構えることのできる気楽さ、それでいて美しく光を捉えることのできる画質、少し遊び心のある機能設定……。夏が本格的になる今、こんなふうに出かけられたなら、と思う。
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tullyz1 at 2015-07-24 19:02
1枚目の色がいいですね。
いろんなアングルでのスナップが楽しいです。
私ももっといろんな場所で撮らないといけないなと思いました。
いろんなアングルでのスナップが楽しいです。
私ももっといろんな場所で撮らないといけないなと思いました。
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eureka_kbym at 2015-07-25 09:20
by eureka_kbym
| 2015-07-24 08:27
| X100&X100T
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Comments(2)