小豆島の宿 ー瀬戸内国際芸術祭2016−
2016年 08月 17日
高松港からフェリーに乗り込むと、船が日常の足なのだということを実感する。テレビで見た「まじか!」が、そこに当たり前にある。高校生の集団。乗り込んだ自転車。おばあちゃん。そこに私たちの「非日常」が入り込む。 お邪魔します。
小豆島は、自分の住む町と人口的に言えばほぼ同じ規模の大きさのようだ。不思議に感じるのだが、一つの島に、土庄町と小豆島町の二つの区画があるらしい。
明るい島だな、と感じた。少し無理をした明るさのような、でもしっかりと根強いものがあるような。
自分の住む町も、大きな古墳群があるゆえに、一応は観光地なのだけれど、芸術祭以外にも、「二十四の瞳」の舞台であり、オリーブの産地であり、醤油の産地でもあるところに、エンジェルロードだ、なんだと、一つの島をいろんな楽しみ方で過ごすことができる。そこそこ大きなホテルも幾つかあるし、本当に同じ人口の町なのか、と。
反則だ、と思った。
最初は、国民宿舎に泊まろうかと考えたのだけれど、旅館に泊まった。とてもとても古い宿だった。
出迎えてくれた女将さんは、タオルをハチマキにして、少し腰の曲がった方だった。
よく話す方で、お風呂に入りなさい、とやたら勧められた気がする。「早く入ってくれると助かるわ。」
実は、宿から直島へ行く「高速船」の港まで、僕らはバス利用か、歩いていく予定だった。
多分、徒歩だと30分くらい。これはどうしようもない。ただ、朝食の時間だけはどうにか早くにならないものかと思って、前もって宿に連絡したところ、「お送りしますよ」というお言葉をいただき、ラッキー!くらいに思っていた。
「オリーブの夢」
「花寿波島の秘密」
「岬の分教場」近く。このために「二十四の瞳」を読んでおいた
朝になって、ちょっと朝食まで時間があるからと近くを散歩していた。醤油蔵の町並みと、「オリーブのリーゼント」などを面白がって見ていたところ、妻の電話が鳴った。宿からだ。
どうも、予定していた船が、お盆の時間調整で早くなっているらしいから、すぐに戻っておいで、とのこと。
まじか! こりゃあいかん、と慌てて戻ると、女将さんが、「とにかく朝食を急いで食べなさい、フェリーの出航までまだ間に合うわ」 僕らは慌てて食べた。慌てて食べる飯に限って美味いのはなぜなのだろう。
車の準備もしてあって、僕らはお礼もそこそこに宿を出ることに。
「また来てくださいね。それまで元気でいるから」
「今、おいくつなんですか?」
「今年で80よ。」
80で、この元気のよさ、見習いたい。
「オリーブのリーゼント」
ご主人が運転してくださった。
「時間の変更なんかは、書いてないんだけれどなあ」と呟いていると、ご主人と、どこから来たのか、宮崎です、宮崎は昔、協会の大会で行ったことがある、へえ、そうなんですね、じゃあ、これでフェリーで高松まで戻って宮崎へ? いや、この後直島なんです、え、直島?
「ジャンボフェリーじゃなくて?」
「ええ、高速船です」
どうやら、女将さん、坂出港、イコールフェリーで高松だとばかり思っていらっしゃったらしい。そして自分らも、時間が変更になっていると言われた際に、その主語を確かめもせずに、てっきり高速船だと思ってしまっていた。
女将さんはわざわざ、調べてくださっていたのだ。ジャンボ「フェリー」の発着時刻を。そしたら、僕らが言った時刻に出る便がない。そこできっと大慌てで色々調べたり、考えてくださったのだろう。 「いや、とにかく間に合ってよかったです。余裕があるので助かります」
「スター・アンガー」
無事に直島へ行った後、妻の電話が鳴った。女将さんからだ。船を間違ったことのお詫びをわざわざしてくださっているようだった。
多分に、今後また来るかどうかも怪しい客に、わざわざフェリーの時刻を調べ、間違っていても、結果高速船には乗れたわけなのに、こんな連絡までしてくれる。とてもとても古い宿だったけれど、とてもとてもとても、細やかな宿だった。
四国はお遍路さんの国だから、お接待の精神があるのかもしれない。けれど、そういう解釈も抜きにして、小豆島の一番の感動は、この宿にあった。家に帰ったら手紙を書こうね、と妻と言った。まだ書いてないけれど。でもそう思うくらい、 いい人だった。
長生きしてくださればいいな。
by eureka_kbym
| 2016-08-17 03:38
| X100&X100T
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