出港 ー瀬戸内国際芸術祭2016−
2016年 08月 16日
真夏の旅が始まる。
2時間のドライブの後、大分県臼杵市からフェリーに乗る。船は離岸し、今は午前一時だ。
船に乗り込んだ二等船室の人たちは、すぐさま寝床を確保すると、ひとときの睡眠をとろうとする。そんな中で眠れないのは、小さな子どもか、旅慣れないで出航の瞬間をフレームに収める自分くらいのものだ。
離岸して、寝床に戻ろうとすると、新しく買ったシューズの靴底が床にこすれてキュッキュと鳴る。小学生くらいの女の子が、無表情のなかにも興味津々と言った様子でこちらを見つめるので、小さな寝息と、子どもらの囁き声しか聞こえないところに、迷惑な音を出してしまった気恥ずかしさもあいまって苦笑いをしてしまった。その女の子の隣では、まだ赤ン坊というのがちょうど良いくらいの男の子が、お父さんに抱かれて横になっている。その男の子の伸ばした腕の先に、病院の診察室で見るような小さな枕がしっかりと握られていたのが妙に滑稽でかわいらしい。日常、船に乗る生活であればさほどのことでもないのだろうが、ましてや子どもである。こんな巨大な、水面を動く乗り物に乗り、こんな見知らぬ人々ばかりの中で、こんな普段ならば起きていられないような時間に、静かに寝ることなんてできるはずもない。しかしそれでも、その場の雰囲気を察するのか、どんな子どもたちも大声で騒ぐことはない。なんてお利口なのだろう。
自分が生まれて初めて乗ったのも、この臼杵から出たフェリーだったように記憶している。あのときも香川に行ったのだ。小学六年の修学旅行から帰った直後の、少林寺拳法総本山への旅だった。二つの旅を連続して行なったのだ。その日は台風の影響だか何かで大きく船は揺れた。乗船している人も僕ら、僕の家族と少林寺拳法の先生くらいのものだったように思う。いや、それくらい本当に海は荒れていたのだ。だが、だからこそ面白かったし、兄と一緒に一番上の甲板に行き、そこにあったチェアとテーブルでオセロをした。磁石式でなければ、すぐにコマは海の底へと飛ばされていったことだろう。波は、確実に僕らのいた甲板まで跳ね上がり、船体も右に左に大きく揺れ、お互い気持ち悪くなるわ、思考はできないわで、オセロは一ゲームも終えることはできなかったのだった。しかし、それはそれ。そういう間抜けなほどのテンションを、船はもたらしてくれる。
by eureka_kbym
| 2016-08-16 11:27
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