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曇天の朝

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 独身時代によく通っていたカフェのマスターは、写真が好きな自転車乗りで、店を閉めた今では、時折ポタリングをしながら写真を撮るよきお友だちとなっているのだけれど、そのマスターと無駄に喋る(相手をしてくれる)休日の昼下がりが好きで、よく自宅から小一時間かけてお邪魔するのが好きだったのだが、ここで学んだことも多く、カフェがなくなった今、そのかわりをどこにすればいいのか分からないまま数年が経つ。
 そのカフェのマスターが言った言葉が記憶に残っている。それがX-pro2を買った際に唯一純正のレンズを14mm、換算21mmにした理由でもあった。
 X100を買ったあとに、換算28mmになるコンバージョンレンズを追加したのを見せたときだったかと記憶する。そのときマスターは、おもしろそうにそれを眺めながら「21mmになるものがあったらいいんだけれどね」と言ったのだった。「X-pro1があるじゃないですか」と僕は言ったと思う。当時出たばっかりのX-pro1にお互い魅力を感じていたのだ。これに対してフルサイズの(それはつまりライカの)カメラに21mmがいいんだよね。というような返事が返って来たかと記憶する。一眼レフであれば、そのような焦点距離のレンズはあったし、その後シグマから魅力的な20mmが出たけれど、シグマでなくとも、その焦点距離で遊べることはできたはずだ。しかしマスターはレンジファインダースタイルの、フルサイズで21mmを欲し、それで若いころに長崎のとある坂で撮影した経験があって、そこで高校生女子を近寄ってばんばん撮影しまくっていたそうだ――そういう体験をしたいのだそうだ。もちろん変な意味じゃなく。ただ当時の女子高校生も、まんざらじゃなく、レンズに向かってポーズを取っていたのだとか、そんな話を奥様に聞こえない大きさで話してくれた。
 そんな言葉が記憶に残っているから、ちょっと使いづらい焦点距離のレンズを、それもボケ好き馬鹿の自分がF2.8という単焦点としては暗いレンズを買うことになったのだ。一眼レフでの単焦点は35mm 50mm 85mm 90mmマクロを持っているし、X100系統であれば、28mm 35mm 50mm相当をコンバージョンレンズと合わせて補え、さらにデジタルテレコンで75mm 100mm相当を賄える。どのカメラでも焦点距離が被らないことも踏まえ、そしてスナップがしやすいX-pro2においては、マスターが言ったように21mmで撮る体験をしてみたかったのである。
 実際撮影してみると、とにかく違和感すら感じたのがゆがみの少なさ。まっすぐがまっすぐに写るという当たり前でなくてはならないことが当たり前にできることが、けっこう難しいことなのだと気づく。だからこのレンズを最初に使ったのが福岡の街だったのは良かった。さまざまな建物のラインがすっとまっすぐに描かれるのは快感ですらある。写真に撮って、画像を確認して、あれ?と思って、ああ、これがまっすぐか、と思うのだ。おかげで福岡でこのレンズを使ったときは、やたらと仰いで撮影することが多かった。翻って、田舎の、大きな建物がないようななかでは、このレンズを使う用途を見つけにくい。それに仰いで撮影する方法以外のことも僕の手持ちの方法では見つけにくい。いろいろ工夫を要するレンズだ。
 ただ、このレンズ一本で、息子と散歩に出かけたとき、その効力を発揮したということは付記しておきたい。まだおぼつかない足取りの二歳が、いろんな遊具に興味をもって挑戦しようというとき、この21mmというのは子どもとの距離をつめられる分、安心していられる。ちょっと危ないな、というときには、すぐに手を添えられる距離。その距離から撮影しても、息子の上半身くらいはなんなく入ってしまう。おまけにゆがみが少ないのだから、撮りかたによってはそれが超広角のそれだとはぱっとみ思われないほどだ。そう、広角は、寄って撮るものという定石が、小さい子どもを抱えている今、有効に働くのである。
 個体差かもしれないが、おどろくほど軽い絞りリングに、オートフォーカス時にこれまたおどろくほど鳴る音など、「スナップにはどうなん?」と突っ込みたくなる上、X-pro2の光学ファインダーでは、21mmの画角が収まりきらないという仕様もあるが、街中をスナップするだけでなく、こうしてちょっと子どもとの散歩の片手間に撮るという状況のなかではなかなか使い勝手のよいレンズだとは思う。あとは、超広角域にあまり触れてこないでいた自分が、どれほどこのレンズに親しんでいけるかが問題だ。21mmというレンズは、個人的には「そのレンズ一本で出かけられるギリギリ最も広角なレンズ(ちなみに望遠側は135mmだと思っている。使ったことないけれど)」だと思っているが、それでも組み合わせとして50mmやもう少し望遠側のレンズとの組み合わせを用意しておきたい焦点距離でもあって、そうなると僕なんかは、レンズ21mmを含めて二本以上を持って行けばきっとその望遠側でばかり撮ってしまうことになりそうだ。そもそも、一眼レフのときは、35mm85mmの組み合わせに50mmを鞄に入れておきつつ、気づけば50mmばかり使っているということがあった。EF50mmf1.2Lの描写が好みだったからだが、結局は余計な荷物が増えるばかりで、動きを鈍くしてしまっていた。だから、ここはどこかでXF14mm一本で一日を過ごしてみるという縛りを課してみることも必要かもしれない。足で稼ぐということを地で行く焦点距離だが、子どもと一緒だったらそれも強制的にやっていけることだろうし、あれもこれもとレンズやボディを持っていく癖を、少し是正するのによい処方のような気がするが、果たして。


by eureka_kbym | 2020-01-21 12:39 | X-Pro2 | Comments(0)

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現在、EOS6D EOS5Dmark2 X100 X100Tを主に使ってあちこち撮り歩くだけのブログです。http://eureka69.exblog.jp/fp/cameras


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